神様の工事途中、という伝説の巨石群
日本独特の山岳信仰である「修験道(しゅげんどう)」。
山に登って霊力を鍛え上げ、神も仏も祀るという「山伏」の登山宗教です。
この修験道の開祖が「役小角(えんのおづぬ)」。
古代氏族・賀茂氏の出身で、現在の金剛山(葛城山)は役小角ゆかりの行場としてよく知られています。
そんな金剛山に連なる山々には多くの伝説が残り、和歌山県橋本市の「不動山」という所にもそのひとつが伝わっています。
そこには山中ながら不思議な巨石の群れがあり、知る人ぞ知るパワースポットとなっているのです。
その巨石群とは、役小角がかつて葛城の神「一言主(ひとことぬし)」に、葛城山から吉野の山まで橋を架けるように命じた折の建材だというのです。
一言主による工事は完成せず、その巨石のみが残された――。
それが、「不動山の巨石」です。
金剛山へと至るルート、葛城修験の行場
葛城修験の修行場としても有名な金剛山は、その縦走路が「ダイヤモンドトレール」と呼ばれています。
奈良県香芝市の「屯鶴峰(どんづるぼう)」を起点とし、大阪府和泉市の「槇尾山」へと至る全長約45kmの登山道です。
長大なダイヤモンドトレールにはいくつもの合流路があり、不動山の巨石もそのルートのひとつとして知られています。
のどかな杉尾の里山とひたすらの急階段
不動山の巨石へは、橋本市の「杉尾」という村から取り付きます。
山間の傾斜地に広がる水田も美しい、のどかな里山で「明王寺」のすぐ隣に約6台分の駐車場が設けられています。
登山道は、いきなりの急階段から始まります。
巨石までの段数は「635段」。
見上げても、もちろん先までは見通すことができません。
これをひたすら登っていくのですが、すごい斜面の途中にベンチがあったりするので、休憩しながら景色を楽しみつつ行くのがよいでしょう。
ちなみに、巻き道の迂回路もちゃんとあるので、階段が辛い方と帰り道はそちらをおすすめします。
巨石、そして「日本の音風景100選」の風穴
ようやくのことで階段を登りきると、そこには「大楠公腰掛ノ石」が。
楠木正成が腰を下ろして休んだという伝説の石で、金剛山一帯を拠点としていた楠木氏とのゆかりを感じさせます。
そのすぐ上には、稲荷社と巨大な岩が。
岩下には三つの祠があり、向かって左から「金剛童子」「不動明王」「八大龍王」が祀られています。
山の上の急斜面に密集する巨石群は、確かに神様が集めて置いたのではないかと思えるほどにミステリアスです。
祠手前の岩には20cmほどの穴が開いており、これに耳を当てると音が聞こえてくるとされています。
その音は紀ノ川の水音だとも、あるいは黄泉の国からの音だともいわれます。
これは人によって聞こえかたが違うようで、わたしは水が落ちるような「ゴォーッ」という音を聞いたのですが、道中で一緒になった他の登山客の方々は「何も聞こえなかった」と言っていました。
不動山ピーク、その道はダイヤモンドトレールへ
巨石群から尾根道をぐんぐん登っていくと、やがてダイヤモンドトレールとの出合いに合流します。
急坂が続きますが途中からは平坦地も出てきて、歩きやすい登山道となります。
巨石群のすぐ近くに立てられた表示板には、ダイトレまでは約2㎞の道のりとありますが急坂が続くため予想外に時間がかかるでしょう。
不動山のピークは標高約600m、三角点がありますが眺望はほぼゼロです。
10人ほどのグループと山頂で一緒になったのですが、それでぎゅうぎゅうになってしまうくらいのスペースです。
昼食休憩ができる広場は近くにありませんか、と聞かれましたがダイトレまでは早くて30分はかかりそうとのことで、なんとか山頂でお弁当を広げられたようでした。
金剛山地には巨石や岩に関する信仰遺跡が多く、とても神秘的なスポットがたくさんあります。
もしかすると、まだ知られざるパワースポットがどこかにひっそりと存在しているかもしれませんね。
帯刀コロク:記
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