人生初の能楽チケット購入!
前から興味はあったけど、なかなかハードルが高そうで踏み切れない……。
わたしにとってその一つが「能楽」の鑑賞でした。
一度ちゃんと観てみたいな~、と思いつつ「やっぱ難しそう」と先延ばしにしていた能楽。
ところが、在所のすぐ近くの町で格安の能楽公演があったのです。
これはチャンス!とばかりに、人生初の能楽チケットを購入したのでした。
吉野・大淀町は能楽の聖地
その公演が行われたのは奈良県吉野郡の「大淀町」。
世界遺産や修験道の聖地としても有名な歴史の宝庫、あの吉野の麓です。
実はこの大淀町、「桧垣本猿楽(ひがいもとさるがく)」という能楽の前身の発祥地であり、特に笛方の名手を輩出したことでも有名な土地。
いわば能楽にとっての「聖地」のひとつなのでした。
能楽の各流派が垣根を越えて結成した「能楽座」、毎年この大淀町にて公演を行っています。
2019年11月で19回目となった能楽座大淀町公演。チケットは前売りで2,000円と、破格です。
わたしが初めて観た2019年度は、「謡(うたい)」の講座や小鼓の宗家・大倉源次郎さんの講演、「仕舞(しまい)」三演目に能楽という、とっても贅沢な内容でした!
実は10歳のころがファーストコンタクト
自分でチケットを買って、自発的に能楽を観に行ったのは初めてでしたが、実は10歳のころにファーストコンタクトを果たしていたのでした。
それは高野山の「星月夜(ほしづくよ)」という野外イベントで、檀上伽藍のあたりで本格的な「薪能(たきぎのう)」が行われたのを覚えています。
子どもだったこともあり、演目が「葵上(あおいのうえ)」だったことくらいしかわかりませんが、なんともこの世ならぬような独特の雰囲気に圧倒されたのは確かです。
その折に狂言も初めて観たのだと、後から気付いた次第です。
『二人静(ふたりしずか)』とは
今回の上演された能楽は『二人静』という演目でした。
これは源義経の恋人であった「静御前」の霊が若菜摘みの女に供養を依頼、憑依して舞いを舞うというあらすじです。
義経との終の別れとなった、吉野の地に相応しいお題です。
「菜摘」とは春の七草を摘むことで、かつては特別な行事でした。
吉野・勝手神社の神官の命で名を摘みに行った女が、河原で女性の霊に遭遇します。
霊は供養を依頼しますが、尋ねても名乗ることなく消えてしまいます。
菜摘みの女は帰って神官にこのことを報告しますが、途中で先ほどの霊が憑依。
問答の末、かつて義経に愛された白拍子「静御前」本人であることが明らかになります。
静が生前に勝手神社に奉納した衣を身に着け、霊と一体となって舞う菜摘の女‥‥‥。
と、いうストーリーです。
鳥肌の演技、圧巻の舞い、そして重厚なBGM!
実は、能楽は言葉も難しく、何を言っているのかなかなか聞き取れないため、最初はほとんど理解できないのではないかと思っていました。
ところが、上演前にあらすじや見どころを丁寧に解説してくれ、手元には台本と台詞の現代語訳を配ってもらっていたため、思いのほか内容がよく分かりました。
そして何よりも、理屈を抜きにして心に迫る圧巻の演技の数々。
摺り足による能楽独特の平行移動、じわあっと動くような風格ある舞い、そして絶妙なタイミングで挿入されるBGMの「囃子方(はやしかた)」と「地謡(じうたい)」………。
菜摘の女に静御前の霊が憑依して舞う時は、本体と霊を表す二名が同じ衣装で同時に動作をします。
これが完全にリンクしていて、菜摘の女の背後に半透明の静がいるというマンガっぽい構図を連想してしまいます。
わたしは早い段階から、鳥肌が立ちっぱなしでした。
もう涙が止まらなくなった
菜摘の女に憑依したのが誰の霊であるか、神官との問答の末徐々に正体がわかってくるシーンはひとつの見どころです。
それが静御前だと判明した後、念のため神官が生前の静が奉納した衣の模様を問います。
菜摘の女は当然それを知らないはずなのに、憑依した静の霊がピタリと言い当てたことで神官は完全に静御前その人であることを信じます。
そして、神官はかつて静がまとった衣を、うやうやしく差し出すのでした。
わたしはここで、突然感情が決壊したかのように涙が止まらなくなってしまいました。
やがて静の魂が乗り移った菜摘の女は、その装束を身につけます。
そして先に述べたように、菜摘の女と静の魂を表す二名が同じ装束で舞台に立ち、完全にシンクロした状態で同時に舞うのです。
自分でも意外だったのですが、終演まで泣き止まずすっかり物語に没入してしまったのでした。
ほとんど初めてという素人にここまで感情移入させる能楽とは、やはりすごいものなのだなあと関心してしまったのでした。
能楽、それは幽玄のミュージカル
最初の解説で、能楽を「ミュージカル」と例えていた意味が実際に拝見してみてよくわかりました。
登場するキャラクターには幽霊や神仏、あるいは妖怪などの人ならぬものが頻出することから、そのコンセプトの一つを「幽玄」という言葉で表すのも納得です。
予備知識ほぼゼロでもこれだけ楽しませてくれた能楽。
もっと知ればさらに楽しめるはず!と思うと、他の公演のお知らせも俄然目につくようになってきました。
これは完全にハマってしまったみたいで、歴史ライターのお仕事に「能楽」をぜひ加えていきたいと思います!
帯刀コロク:記
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